中距離、長距離種目とエネルギー供給のしくみ


体力の要素の話は他の記事で紹介しています。
体力を要素に分解してトレーニングで鍛えることを意識する。を詳しく見る。

今回は、走ることに焦点を当てて、さらに走るスピードによって使われるエネルギーが違うということを説明します。

車の燃料はガソリンや軽油です。エンジンの機能を維持するためにエンジンオイル、冷却水などが必要です。車は短距離でも長距離でも同じ燃料で走ります。

人は食事をエネルギーに換えて活動することができます。また生命維持のために酸素と水分が必要です。走る時には、運動強度や運動時間によって使われるエネルギーが違います。知ってましたか?

これが陸上競技で専門種目を分ける壁になっています。

それでは、走るためのエネルギー供給系について説明します。

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【短距離】クレアチンリン酸系(無酸素運動)

100mほとんど
200mと400mのスタートダッシュ時

クレアチンリン酸
10秒以内の高負荷運動
CPやクレアチンという名前のサプリメントで補うことができます。
Cはクレアチン、Pはリン(Pi)
数分休憩すれば筋肉内で再合成されます。

(具体例)
スタートダッシュ数本や加速走数本、ジャンプ系の補強
やる時は全力で走る、休む時は完全休養で回復させます。

クレアチンのサプリメント
瞬発的な運動直後に摂取することで回復を早めます。

【短距離】ホスファゲン系(無酸素運動)

200mの後半
400mの序盤〜終盤
約10″〜40″の全力運動
筋肉内の酸素
筋肉内のミトコンドリアによるATP⇄ADP合成
ATP-ADPサイクル

ATPのTはトリプルの3、ADPのDはダブルの2で、Pはリンです。

爆発的なエネルギーを発生させたクレアチンリン酸は最初の約10″で消費されてしまいます。

その後、呼吸による酸素を消費しない状態で、アデノシン三リン酸からアデノシンニリン酸へ変換、そして再合成と変換を繰り返してエネルギーが発生します。エネルギー産生には大量の酸素が必要ですが、この時は筋肉内の酸素を消費しています。副産物として乳酸も産生されます。

乳酸は酸素によって分解されますが、発生する乳酸の量の方が多いため、乳酸の量は増えていきます。

人にもよりますが300m弱で筋肉内の酸素は尽き、急激に乳酸の蓄積が起こります。

高強度の運動を続けている限り乳酸は蓄積され続けます。こうなると筋肉の収縮が困難になりスピードは一気に落ちます。

運動強度を緩めるか止めると徐々に乳酸は減っていきます。呼吸により吸収した酸素と乳酸が結合して分解されます。

陸上競技400mのエネルギーの内
約80%はクレアチンリン酸系とホスファゲン系
約20%はこの後紹介する無気的解糖系になります。

この20%が、短距離選手でも400mは持久的な能力が必要な理由です。

クレアチンのサプリメント
瞬発的な運動直後に摂取することで回復を早めます。

 

【中距離】無気的解糖系

400mの約20%ラスト(約40秒以降)
800mの約60%
1500mの約40%

呼吸による酸素
筋肉内のミトコンドリアによるATP⇄ADP合成
ATP-ADPサイクル
約40秒〜1分30秒の高強度運動
乳酸蓄積と酸素負債

ホスファゲン系と同様に、筋肉内のATP⇄ADP合成が行われ、エネルギーを産生します。同時に疲労物質である乳酸も発生します。

呼吸により大量の酸素を身体に取り込んでいますが、消費する酸素の方が多いため、高強度の運動時には酸素が足りなくなって、筋肉内の酸素を借りてきてまで合成を繰り返します。これを酸素負債と言います。

中距離種目では、この酸素を使い切るペースを配分するために、走るペース配分をすることになります。全力で突っ込んだ走りでは、スピード維持が不可能になります。

酸素負債は酸素の借金みたいなものです。借りたお金は返さなくてはいけません。借りた酸素も返します。800m、1500mを全力で走るとゴールしても呼吸はすぐには落ち着きません。

超しんどくて、中腰で両手を膝について頭を下げたり、地面に四つん這いになっている人もいます。この時に、体全体に酸素を返しています。頭を下げてしまうくらいキツイのは脳の酸素が足りないからです。

ゴール後はすぐにゆっくりなダウンjogをして、酸素を体内に取り込んで、速やかに乳酸を除去する必要があります。

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【長距離】有気的解糖系、ATより上のレベル

800mの約40%
1500mの約60%
3000m〜ハーフマラソン

呼吸による酸素
筋肉内のミトコンドリアによるATP⇄ADP合成
ATP-ADPサイクル
約1’30″以上の中強度の運動
または低強度の連続運動

より長い距離を速いスピードで走ることが、陸上競技長距離種目の求める姿です。

ATの説明

上に書いてあるATとは、無酸素生作業閾値(いきち)のことでアネロビック•スレショールドの頭文字の略です。スレショールドの意味は境目で、閾値(いきち)という言葉で表現しています。

簡単に言うと、無酸素運動と有酸素運動の境界です。

有酸素運動とは、呼吸によって取り込んだ酸素を元にATP⇄ADPサイクルでエネルギーを産生している状態です。当然、乳酸も発生していますが、呼吸の酸素である程度分解されており、血中乳酸濃度は上昇していますが、運動続行可能なレベルです。

無酸素運動とは、呼吸の酸素だけでは足りず筋肉内の酸素も使って、ATP⇄ADPサイクルでエネルギーを産生している状態です。発生した乳酸を分解することが難しい状態です。

長距離種目のハーフマラソンまでは、ATのペースを超えます。長距離種目と言っても、このように無酸素領域に入っています。どれくらい無酸素領域に踏み込むかでスピードが上がります。スピードを上げすぎると乳酸の除去が追い付かなくなって、スピード維持ができなくなります。

運動強度を高くすれば走るスピードは上がりますが、酸素供給が追い付かなくなり乳酸が急激に蓄積されます。運動強度を少し落とせばスピードも落ちますが、乳酸の産生も少なく抑えられます。

距離によって、このあいまいな表現のペース設定、ペース配分をして、可能な限り速いスピードを維持して最後に力を出し切る。これが長距離種目の本質になります。

長距離の各種目共通で、スタート直後はクレアチンリン酸系、ゴールスプリント、ラストスパートは無気的解糖系のエネルギーで走っています。

 

【長距離】有気的解糖系、ATより下のレベル

フルマラソン

他の長距離種目との大きな違いは、フルマラソンのスピード、ペースはATを超えない!と言うことです。

そして、もう1つの違いは体内のエネルギー全てを使い切ってしまうレベルの運動だと言うことです。個人差はありますが、ほとんどの人はエネルギー切れになるはずです。

これが30kmや35kmの壁と言われるものの原因だと私は考えています。

私の考えですが、良かったら読んでみてください。フルマラソンのエネルギー必要量と補給

グリコーゲン回復のサプリメント
運動直後に摂取して回復を早めます。


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まとめ

わかりやすくするために種目と距離でそれぞれのエネルギー供給系の説明してをしました。誤解しないで欲しい点は、ある距離で突然切り替わる訳ではありません。それぞれのエネルギー供給系は運動時間と運動強度によって、無段階的に身体の中で自動で作用しています。

陸上競技の種目で言えば、短距離は100〜400m、中距離は800mと1500m、長距離が3000m以上に区分される理由は、主に使われるエネルギー供給系の違いであると私は考えています。

個人の性質によって、得意なエネルギー供給系が異なり、その距離が得意であると認識して、陸上競技の種目を選んでいると思います。みんな自分の能力を一番出せる舞台で戦いたいですからね。

私のホームページの練習メニュー選択システムを作った時に、この個人の性質と言いますか運動特性を考慮しました。

同じ目的のトレーニングメニューを作る時に、持久力タイプは連続して、中間タイプは距離を分割して、瞬発力タイプは距離を細切れにしてペースを速め、反復して走ることで持久力向上を狙います。

約10年前に教えた、約50人の初心者チームがありました。そこでこの3タイプに分けた練習メニューで教えました。全く陸上経験がないメンバーから1年くらいで5km16分台を5人出しました。その5人以外には15’台が3人いて陸上長距離経験者でしたが、短期間で急成長をするメンバーたちを見て驚いていました。高校の部活動のやり方とは全く違うとも言われました。

その後も、約7年間たくさんの選手を教える機会がありましたが、全てこの3タイプで教えました。

そうすると、面白いことがわかりました。
タイプによって性格の傾向や組織の中での役割が見えてきました。チームスポーツではとても重要な要素になります。陸上は個人競技ですが、部活動やクラブチームで部長やブロック長を選ぶ時に影響します。この話はまた他の機会に紹介します。

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